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カモS story.5【Afterscool Day】

お待たせ(?)いたしました。

完成しました。千谷さんSSです。

お待たせした時間に見あっているクオリティが出来てるかは自信ないですが

暇つぶしにでも読んでいただければと思います。

以下、留意点。

・カモフラの二次創作SSです。苦手な方は全力で回避を。

・時系列は本篇開始前のどこか。まあ、テキトーで大丈夫です。

・メインはAチームの千谷さん。でも、Bでも大丈夫かな……たぶん?

・閲覧の際は、読者様ご自身のイメージや理想を著しく崩す可能性がございます。そちらをご承知の上で先にお進みください。

・今回最大の注意点です。
今作品には、カモフラ本編未登場の オリジナルキャラ が登場します。
おそらく、人によっては強烈な拒否反応が出ると思われます。

いやそれもう無理やわ!て方は急いで戻るボタンを五回くらい連打してください!

……ただ、あえていい風に言うなら、今回は結構この作品単体で成立してる描写が多いので
カモフラ を見ていない読者の方にも読みやすいかもしれません…………ひいい、すいませんすいません orz


では!!












「お疲れさまっす……あれ?」

工藤が事務所のドアを開くと、部屋の角の床に御座を敷き、そこで寝息を立てる千谷の姿が目に入った。

「……マジか」

別れさせ屋という仕事の性質上、定時上がりなどというものはあってなきがごとしものであり

それ故に、事務所あるいは簡易宿泊施設に缶詰めしての長期工作などはザラである。

そういえば千谷は今日、泊まりで資料の整理だったか。

自分はおもに対象との接触を主として動く工作員なので、それが果たしてどの程度の負担なのかはピンとこなかったが
それでも、千谷が恐らくはたいへんに疲れているのだろうということは察せられた

しかしながら、こんなにも床で安らかな寝息を立てられる人物で千谷以上に思い当たる人物を、工藤はすぐに思い浮かべることができない。

それくらいに、千谷がそうやって眠る姿は妙に馴染んでいた。

「おっす工藤」

かけられた声の方向に視線を送ると、恐らくは夕方に対象との接触を終えて戻ってからずっと報告書のまとめ作業などを続けていたのであろう狩集が
ぐでーっとした表情で思い切り椅子の背もたれに寄りかかり缶コーヒーをあおっていた。

普段の無駄にカッコをつけたスタイルなどどこ吹く風で
この状態の狩集では間違っても女の子を引っ掛けるなどできないことだろう。

「狩集さんお疲れっす」

「おう、もう上がるとこ?」

「おれはそうっすね。社長からも今回の報告書提出は明日でいいって言われてるんで」

「うっわ羨ましいー……俺もうちょい残業やわ」

「あの人も……ですよね」

「うん?」

工藤の視線を追った狩集が「ああ」と納得する。

「いや、でもあいつは確か昨日もやったみたいやで」

「マジすか?」

なんならちょっと引き気味で驚く。
そもそも徹夜という作業に対して、めんどくさいという以上に適切な言葉を見出せない工藤にとっては
千谷はまさしく奇人変人の類である、まあこの事務所の人間はだいたい変なのばかりなのだが。

「しんどくないんすかね、あんなところで寝てて」

「いやあ、なんか慣れてる言ってたで、床で寝るの」

「なんすか、床で寝るの慣れてるって」

「いや俺も知らんのやけど、ADやってた時とかちゃう?
あとはまあ、なんか家族が多くて基本的に兄弟と雑魚寝やったみたいな話は聞いた気がする」

狩集が心底興味ないという風に、ただ昔知っただけの情報をポロポロと口からこぼす。
しかしながら本当にひどいありさまだこの人。

髪はボサボサで服はよれよれ。

デスクの上にはタバコがぶっこまれすぎて花咲か爺さんの壺になりそうな灰皿が鎮座している。

それだけで狩集がどれだけ長い時間、ここで作業を続けているかが分かる。
自分はまだ経験がないが、自分も来年あたりにはこんな感じのダメな大人になっているのだろうか。

そう考えるとなんだか寒気がした。きっと冬だからだろう。

「あ、工藤」

ダメな大人が何かに気づいたように工藤に声をかける。

よもや自分がダメな大人さんを狩集だと思っていたことがバレたのかと肝を冷やしたが。

それは杞憂であり、よくみれば狩集はちょいちょいと千谷を指さしていた。

「この時間になったら千谷に起こしてって言われててん。起こしたって」

「え、なんで俺なんすか」

「いや、千谷寝起き悪いから」

「なんでその情報を渡したんですか? 余計いやになったんすけど」

「いいからホラ、先輩命令や」

「ええ……」

くそ、ダメな大人め。吊さんあたりに蹴られればいいのだ。
そのまま尾てい骨を粉砕骨折すればいいのだ。

「あのー、千谷さん?」

狩集に言われたことを思い出しながら、恐る恐る千谷に近づく工藤。
いやしかし、本当によく眠っている。
自分がもしこんなところで寝ろと言われたら、一分に一回、寝苦しさでもんどりうってる可能性さえある。

この安らかな寝顔は、なにか心休まる夢でも見ているのかと思うほどだ。

工藤は、いい加減に意を決すると、この数分後、自分の頭がフリップで思いきりど突かれてる光景があるなどとは露とも思わず、千谷に声をかけた。

「千谷さん? 千谷さーん?」






「千谷さん!」

高校に入ってからもう二年と半年ほどになるが、学生生活を通して、部活というものはどうにも自分には遠い存在で
敬遠とまではいかないまでも、まあ自分には関係ないだろうと思っていた。というよりかは今も思っている。

何が言いたいかと言うと、自分にとって放課後とは授業が終わったその時であり
それ以降は自分が好きにしていい時間、自分一人が自分という人間の体を好きに動かしていい時間であると、千谷蘭は認識しているのである。

それは、期末のテストも終了し、冬休みを目前に控えて羽を伸ばしたがる生徒たちが挙ってカラオケやらボウリングやらに友人と行く中においても変わらなかった。

……いや、別に、人といるのが苦手だとかコミュニケーションを取るのが嫌いだとかそんなのではない。

クラスに普通に友達と呼べる人間はいるし、たまにだが遊びに行ったりもするのだ自分は。

……まあ、多少、会話とかが上手くはないことは認める。

だからというべきか、それでもというべきか
今現在の状況は千谷にとってそれなりに意外な出来事の連続であり
、なるほどだからこそ今でも覚えていることは多かった。

「えっと」

なに? と聞く前に、肩を揺らし未だに息を整えれていない状態(様子を見るに走ってきたのだろうか)で、それでも目の前の彼は言葉を続けた。

「えっと……その……千谷さん、駅の方に行くよね……?
よかったら、一緒に帰らない?」

別にこれはなんでもない話。

それこそ、普通の学生なら普通に毎日、当たり前に繰り返してるようなありふれた日の放課後。

ただ、まあ、だけど、千谷蘭が……今でもたまに、思い出す話だ。






カモS story.5

Afterscool Day






東亜瑠未(とうあ るみ)は千谷と偶然にも三年間同じクラスで学校生活を送った男子生徒で
その女性のような名前と、遠目から見ればともすれば中学生にも見えてしまいかねないベビーフェイスから
クラスでそこそこ人気がある男の子だ。

千谷ともクラスでは比較的話す方で(とは言っても千谷にしては、という比較なのだが)、まあ仲は悪くない方だろう。

この地域では聞きなれない標準語を話しているのは、元々が東の生まれであったからなのだという。

親の都合で転校が多いらしく、千谷の通う学校にも一年の秋という中途半端な時期に転校してきた生徒だった。

そして、この冬明けに北の遠方の学校への転校が決まっている。

「どうしたん?急に」

そろそろ気温も本格的に寒くなってくるであろうという初冬。

千谷は生来のざっくばらんさもあってか、しゃれっ気のイマイチ無いダッフルコートのポケットに両手を突っ込み、隣を歩く瑠未に声をかけた。

かじかんだ手に息を吐きかけていた瑠未は、え?
と目を丸めてこちらに視線を向けてくる。

その様子がなんとも男子に似つかわしく無い可愛さで、妙な感じだ。

「いや……今まで一緒に帰ろうなんて言ったこと、無かったし」

「ああ、うん……いや、ほら、僕もうすぐ転校するじゃない?
だからまあ、思い出作りじゃないけど、みんなと話す時間を持ちたいなあ、って」

「……ああ」

実をいえばちょっと分かってて避けていたところをハッキリ言われた。

そういえば柔らかい物腰だけど、こういうところはしっかりしてた子だったなと思い出す。

「北の方……?」

「うん、こっちよりずっと寒いんだって。ゾッとしないよね」

「冬休み明けって言ってたっけ」

「うん、でも休み明けはバタバタしてあんまり時間なくて
碌に挨拶できないだろうから、今の内に……って思ってさ」

寂しそうに呟く姿が絵になるな、と思う。

もし自分がカメラマンだったりしたら、この構図での写真が一枚ほしいなとかどうでもいいことが頭をよぎった。

「そっか」

他に何か、かける言葉を見つけてやれないものかと思ったがやめた。

実をいえば、千谷も幼い頃に転校を経験したことが一度だけある。

もちろん、その時の自分と今の瑠未とでは、明らかに違う点がいくつもあることは承知しているが、それでも転校の淋しさを知っている身としては、だからこそ下手なことを言う気にはなれなかった。

こういう時ばかりは口べたな自分を恨めしく思う。

「卒業まではこの学校にいたかったけどねー……千谷さんは、卒業したらどうするの?」

千谷が話し方に窮していることを察したのだろう、瑠未は話題をシフトしてきた。

これも瑠未が周囲の人間から愛される所以の一つであるのだが
彼は、話す相手を決して不快にさせない。

男女両方からモテる瑠未のことを、羨ましい恨めしいと妬く声はあっても
瑠未個人を嫌い、などという声がまったくないところからも
彼の人当たりスキルの高さが伺えるだろう。

だから千谷は同時に不思議でもあった
どうして彼が自分に話しかけてくるのか。

「ええの?」

思わず質問に質問で返してしまった。

「うん?」

「うち以外に、そういう話したい人おるやろ?」

そういえばふと思い出したことだが、クラスの何人かが瑠未の行ってらっしゃい会を催したいと言っていた気がする(さよなら会、ではないところがミソ)。

しかもそういった手合いがひと組みやふた組みではないものだから
瑠未の言うような挨拶をしたいというなら、こんな自分に割く時間など惜しいのではないか。

卑屈とまでは言わないまでも、遠慮も込みで千谷がそう呟くと

「……え?なんで? 千谷さんは千谷さんだけでしょ?」

なんとも不思議、というはにかんだ表情で返された。

(……なるほど、これはみんなに好かれる訳だ)

普通の高校生男子が今みたいなセリフを言うと、恐らくは嘘くささ満点の滑ったセリフになりかねないのだが
瑠未はそのハードルをひょいと飛び越えてしまう。

きっと彼は、人に愛されるという才能を持ってしてこの世に生を受けたのだろうな、などという無駄に哲学なことまで思ってしまうほどだ。

自分がそういうのを得意でないと自覚しているからか、千谷にとって瑠未のソレは殆んど天上の離れ業、自分とは住む世界の違う人間の振る舞いに見えた。

そう、例えるならばまるで……

「アイドル……」

「え?」

「あ」

しまった。口から出てしまっていた。

え、千谷さんアイドルになるの!?

「ち、ちがう」

「ん、んーっ!」

大声で滅多なことを言われるのが嫌で、つい両手で瑠未の口を塞いでいた。

最初十秒ほどの間、瑠未は千谷の腕を外そうとしていたが
以外と力強いソレに敵わないことを悟ったのか、最終的にはアイコンタクトでもって手を離すことを要求してきた。

「……ふぅ」

ソッと手を離すと、瑠未の口から吐息が漏れた。

よほど苦しかったのだろうか、顔も少し赤みがかっている。

「……ごめん」

「い、いや、あの、こっちこそ」

「……」

「……」

「あ、えと……」

どことなく気まずい沈黙に耐えられず、千谷が先に口を開いた。

そもそも自分の発言と行動が招いた気まずさだったため、それをカバーしたいという気持ちからだった。

「その……東亜くんが、そういうの似合いそうやなって」

「そういうのって……え、アイドル?」

千谷は自分の嘘偽りない気持ちとして瑠未の問いに頷くと
問いを投げた本人はとんでもないという風に両手をぶんぶんと振った。

「そ、そんな、僕なんか全然……全然だよ僕なんか」

その姿がもはやアイドルばりに可愛らしかった訳だが、本人があまりノリ気ではなかったのでそれ以上のことを言うのはやめておく。

自分だってそういうつつかれ方をされるのは得意じゃない。

「いや、でもビックリしたよ……学校出たらどうするの?
って質問にたいしてアイドル、って返ってきたから、実はそういうのに憧れてるのかと」

「そんな訳ない……そういうのが似合わないってくらい自分でも分かってる」

んー、そうかなあ?と瑠未は考えるように宙を見上げた。

頭から決めつけた言い方をしないのが瑠未の美点ではあるのだが
こう、明らかに分かり切った事に対して思案されるのはむず痒いモノがある。

特にその話題の渦中にいるのが自分ともなれば尚更だ。

「アイドルやってる千谷さんも、きっと可愛いと思うよ?」

お世辞乙、とか思ってしまうのはもはや十数年間積み上げてきた生き方なので容赦してもらいたい。

多少背中がこそばゆい感覚はなくもなかったが、得意のポーカーフェイスで誤魔化しておく。

千谷が一人で頭の中をぐるぐるさせていると、瑠未が「あ、でも」と言葉を続けた。

「確かに、千谷さんは番組に出てる方の人じゃないかも」

どっちかっていうとだよ? と、何に対しての言い訳かは分からない言葉を付け足したそのセリフに首をかしげる。

「出てる方じゃない人……?」

「ほら、ADさんとか、なんかそっちっぽいかなって」

「AD?」

あまりにも発想がなかった言葉が瑠未の口から出たことに虚をつかれたが
瑠未は「うんっ」と嬉しそうにうなづいて続けた。

「ほら、千谷さんって周りのことすごくよく見てるじゃない?
その上で、言うべきことはちゃんと言うし……面倒見もいいと思うし」

「いや、小さい頃から弟とか妹が多かったから自然にというか……」

「文化祭とかで振られた役割もすごくテキパキしてるしさ」

「それは、まあ、そういう作業が好きだからというだけ……」

「自分からはしたがらないけど、いざチームワークが必要とされた時は誰よりもそれを大事にしてるし」

「いや、輪から外れると後々やりにくいし……」

「だから、きっと千谷さんは周囲からすごく頼られるADさんになると思う」

あのー、すいません、自分、ADを目指すなどとはまだ一言も言っていないのですが。

モノの見方というのは人によってこうも違うものなのかと驚きと少々の呆れを感じる。

「あ、それか、千谷さんは無口でミステリアスで仕事ができる、エージェント的な仕事でもいいかもだけど」

「嫌やわ、そんな聞くからに如何わしそうな仕事」

まったくどこまで本気なのか。

瑠未の方こそ、人の魅力を発見、発掘するプロデューサーにでもなればいいと思う。

「……まだ考えてないよ、将来のことなんて……それこそなんとなく大学行くかなーぐらいのもんで」

「え、そうなんだ?」

そうなんですよ。

瑠未がいったいどんな経緯で、というかどんな勘違いで自分をそんなデキる人間に見ているのかは分からないが
実際のところ千谷は教師から「進路調査だぞー」と言われて件の用紙を配られるたびに頭を抱える程度には周囲から遅れている。

そりゃまあ、勉強はそこそこ出来ると思うし、将来的に色んなことが出来るようにと磨いているスキルもあるが
いま現在は旅に出る準備はできていても旅の行き先が定まっていないようなふわふわした状態なのだ。

「そっちは?」

「え?」

「東亜くんは進路とか考えてるん?」

別に仕返し、という訳ではなかったが、こちらとしても聞いてやりたいという気持ちになった。

まあ、いろいろと世の中を渡るすべを心得ている彼のことだ、なるほどと納得する堅実な答えが返ってくるのだろうと期待したところ……

「笑わない?」

「? 笑えへんよ?」

「……旦那さんかな」

普通に笑えなかった。
なんなら冷や汗が出た。

「え……?」

「あはは、まあ、そうなるよね」

瑠未は分かっていましたよという風に苦笑して、しかし恥じるというよりかは少し迷うかのように表情を巡らせてから言葉をつづけた。

「旦那さんっていうのは、なんだろう……こう、安心して好きな人たちに好きなことをさせてあげられる男になりたいなあ、って意味なんだけどね」

「好きな人たちに……好きなこと?」

「うん」

先ほど息を吹きかけた手も、さすがにまたかじかんできたのか、瑠未はもう一度「はーっ」と両手に息を吐きかける。

「ほら、千谷さんは知ってると思うけど、僕ってお父さんの都合で転勤が多いじゃない?
 あ、別に僕はそれが嫌だっていうんじゃないよ? 僕はお父さんのこと好きだし……あの人の仕事のためだっていうなら転校だって仕方ないと思う。
 でも、もし僕が誰かと結婚して、お父さんになった時……子供や、奥さんに、何かの理由で『仕方ないんだよ』って言って無理をさせたくないんだ」

いつだったか、瑠未とお互いを知り合い、そこそこ話すようになった頃に彼の家族の話を聞いた時のことがフラッシュバックする。

思えばあの頃から、よくここまで関係が続いたものだと思う。

こんなに話していてつまらない人間も瑠未の人生の中ではそうはいなかったろうに、まったく人がいいやつだ。

「それで、旦那さん……?」

「ほら、女の子が将来の夢に『お嫁さん』って書く時はさ、書いてはないけど必ずその言葉の前に『素敵な』が入るでしょ?
 だから僕も、そういう意味で『旦那さん』になりたい……なんだけど、変かな? やっぱり」

「え?」

「千谷さん、笑ってるから」

驚いて手を顔に当てるが、元々笑ってなどいなかったのかあるいは驚いたせいでその形跡がなくなってしまったのか
瑠未のいう「笑ってる」を確かめるすべはなかった。

「……笑ってた?」

「うーん、笑ってた、ていうよりかは、ほほえみ?」

「ほほえみ?」

「うん、ほほえみ」

ますます分からない。なぜに?why?

自分の顔にぺたぺた手をあてて自分の表情に対して不信感すら覚えていると、その様子がおかしかったのか
今度は瑠未の方がくすくすと小さく笑った。

「ごめんね、おかしいよね、そりゃ……男が高校生にもなって旦那さんだとか」

「え、いや、おかしくないよ」

それだけは言い切れた。

自分が笑っていたのかそうでないのかは自分でも判然としないが、決して瑠未の言った将来の展望に対して嗤っていたなどということはない。

それだけは、何故かはっきりと言い切ることができた。

「……いいと思う、うちはそういうのも、なんも、今はないから」

羨ましかったのだと思う。たぶん。

自分は今まで、なんやかんやのらりくらりと今までの人生を過ごしてきたけれど
瑠未のような考えを持ったことなど、一度としてない。

だから、そんな瑠未がきっと羨ましくて、きっと眩しくて、だから……なぜか……笑ってしまったのかもしれない。

「でも、千谷さんならきっと、何があっても大丈夫だと思うけどね」

そんな、決して自分とは違うのだろうなと思うしかない瑠未がしかし、妙に確信めいた口調でそう言った。

「なんでそう思うん?」

「千谷さんだもん」

なんだそれは、という言葉は飲み込んでおいた。

別に、そう言われたのが不快だったとか反論したいわけではなかった。むしろ……ああ、そうだ。

きっと、うれしかったのだろう、自分は。

瑠未にそう言ってもらえたことが。

だから、いろいろと思うことはあったにしても、表に出さず、今はただ彼の言葉をありがたく受けようと思ったのだ。

―――それは、駅のホームが目に入った時に

そういえば、瑠未とちゃんと話せる時間は、もしかしたらこれが最後になるかもしれないという事実を

ふと思い出したからかもしれなかった。

φ

「じゃあ、このへんで」

なるほど瑠未は自分とは反対側の方面だったのだなと今更ながらに思ってしまったのは、この状況に名残惜しさを感じているということなのか。

しかし思ってはいても自分はそんな言葉をうまく表現する術など知らず、瑠未が以外にもあっさりと口にした別れの挨拶に対して頷くことしか出来なかった。

切符を改札に通し、五メートルと離れていないそれぞれの方面へと別れる階段の前で、千谷が自らの口下手さを呪っていると
急に……そう、本当に急にという形容がもっとも相応しいのだろう。

留美が振り返って千谷の目をまっすぐ見た。

「え……」

千谷は面食らった。

というのは、瑠未のそんな表情を見たのは初めてだったからだ。

当の瑠未は瑠未で、千谷と目を合わせたまましばらく言葉を発さず、ただ何かを考えているようで、しかし決してその間も千谷から視線を外すことはなかった。

「……僕ね」

はたして何秒? 何分? あるいは何十分が過ぎたころだっただろうか、瑠未が意を決したように口を開いた。

「僕……好きな人がいるんだ、この学校に」

衝撃。

何が? とか、何故? とかそんな理由が必要な複雑なモノではない。

その事実を知った瞬間、あるいはその言葉はそのまま暴力であるかのように千谷の脳に激しい痛みをもたらした。

千谷自身、なぜ自分の体がそんな痛みに襲われているのかを理解できず、混乱する。

瑠未はそれを知ってか知らずか、まだ視線を外さずに言葉をつづけた。

「転校しちゃうけど、もしかしたら会えなくなるかもしれないけど、その人に気持ちだけは伝えたいって思ってるんだ」

言葉としての情報が頭に入ってはいてもそれを処理することを脳が拒んでいるのか、まったく瑠未の言葉を飲み込めない。

そもそもなぜ自分がこんな状態になっているのかもわからないのであるから、対処のしようがないのである。

ただ、汗が吹き出し、血が逆流し、心臓を内側から立て続けにノックされるような感覚だけが続いていた。

「千谷さんに、参考程度でいいから……聞かせてほしいんだ」

「……なにを?」

それを絞り出すのが精いっぱいだった。

「ぼく、その人に言うべきかな……?」

……なぜ、そんなことを自分に聞くのだろう目の前のこの男は。

それも、なぜ今、この時、この場所で、こんな、最後になるかもしれない会話で、それを言うのだろう。

どう言ってほしいのだろう。どうしてほしいのだろう……いや、それ以前に

――――――そもそも自分は、どうしたいのだろう。

「うちが、その人、告白される人やったとして……」

「……うん」

「それを言われるのは……つらいと思う」

「…………うん」

「もう、別れないといけない人から、最後に好きって言われるのは……きっと、つらいと、思う」

「……そっか」

最後は、頷くこともできなかった。

ただ、動揺していない自信はあった。

先ほどまで吹き出していた汗も今はすっかり止まっている。体も震えていない。視線も、まっすぐに瑠未を見ているはずだ。

そう、例え――――――『瑠未が欲しかったかもしれない答えを返せてはいなかったとしても』

「……そっか、うん、そうか。そうだよね。ありがとう千谷さん」

「ううん……別に」

瑠未は笑っていた。

千谷の目にはそれが寂しさを湛えているようにも見えたし、何かを吹っ切ったかのように見えたけれど……ただ、それよりも、それ以上に

きれいで、この目が好きだと、思ってしまった。

「じゃあ、本当にありがとう……ばいばい、千谷さん」

「うん……」

うまく手が振れなかった。

瑠未は振り返って階段をのぼって行った。

そのままこちらを振り返ることはなかった。

それが最後になった。

「……よかった」

蘭は嘘をつくのが上手で困っちゃうわね。

と、昔よく母親に言われていたのを、何故か思い出した。






瑠未は冬休み中に転校していた。

なんでも父親の転勤が早まったとかで、年を越さないうちにこの地を発ったのだそうだ。

クラスの女子(もちろん男子も)の中には、それをひどく嘆く声があったが、千谷はその輪の中には入らず

一人もくもくと冬休み明け、この学校では三年生に上がる直前に配られる一枚の紙に向き合っていた。

進路調査表

「……」

千谷は、その性格によく似合うと周りから評される少し女子らしからぬ無骨な文字で第一希望の欄に

AD

と記した。




三年生に上がってすぐの頃に
転校する前、瑠未にはずっと好きだった人がいて、結局その思いは実らずに失恋して転校していったらしいという話を
同じクラスになった、彼の友人だという男子生徒から聞いた。

千谷はいつもの無表情で

「もったいないよね」

と、答えたのだった。
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◆ コメント ◆

「」


ケータイからだと誰が書いたブログかわかんないから、全員タイトルに名前入れといてほしーな

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