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オゾS Story.3 【rebirth】 by.マナカ

・改行とか句読点とかかなりいい加減ですすいません。はい、言い訳です。すいません。

・オゾケの二次創作SSになります。
 そういうの苦手だぜって方は全力で回避を!

・閲覧の際は、読者様ご自身のイメージや理想を著しく崩す可能性がございます。
 そちらをご承知の上で先にお進みください。

・今回、過激、とまでは言わないまでもダークかつ病的な描写がいくつかございます。
重い話とか苦手、って人には大変オススメしません。



以上がOK!って方はどうぞ




…………えと、我ながらそれなりにハードな展開です。

たぶんだけど大丈夫だよ!ってもう一度言ってくださる方はどうぞ……!









12月24日

私たちは、笑いたかった




カーシー博士の屋敷、と街の人間からまるでお化け屋敷かのように揶揄されるこの建物はしかし、周囲の人間たちにそう言わしめてしまうだけの何かをその内にたたえている。

そもそもにおいて本来、独身の男性一人が住むには広すぎる、という点もそうなのだが
明らかにそうなることが分かってていただろうと言いたくなるほどに屋敷の至る所に手入れが行き届いておらず
決して建築されてからそこまで長くそこにある訳ではないだろうに
場所によっては蜘蛛の巣やネズミが出入りするための穴などが、「古びた屋敷」と呼ぶのに遜色ない気配をこの建築物に付与していた。

しかしおばけ屋敷、とはいったものの、実際はそんなエンターテイメント性に富んだ部分は一切なく
屋敷を一貫して支配するのは静寂とたまに聞こえる冷たい風の音だけ
例えば今時の若者がこの屋敷で肝試しをやろうと意気揚々として乗り込んだとして
入ってものの数分で「退屈だから帰ろう」となるのは目に見えているのである。

「ぶーーーん」

そんな、なんの面白みもない屋敷の廊下をまるで【全てが楽しいかのように】笑いながら駆け抜ける少女の姿があった。

「壁にぶつかりましたー。軌道修正します。ぶーーーん」

時にしゃがみ込んだり、時に何もない場所で何かを掴もうとジャンプしてみたり
かと思いきやまたしゃがみこんだりする
一見するだけでまるで意味のない行為だと分かるのだが、少女はその一つ一つを行うたびに満足そうに笑う。
そんな不可思議な行動を何故するのか?という問いを彼女に投げたとしたら

そしてそもそも彼女、オゾケ・ストロベリィ・ドォルズのキャンディこと、あめが「正常な会話」を出来たとしたら

彼女が返す言葉はこうだろう

「そんなことを私に聞かれても分からない」

だ。

「ふぅ、ルンバも楽じゃないなぁ」

ひとしきりやりたいことを、否「やりたくないこと」を終えたのか
あめはすくっと立ち上がると、歩くだけでも埃が舞いそうな廊下を全力疾走の勢いで駆け出す。
行き先は、『以前までは』いつもドォルズたちが集まっていたあの部屋

全力で疾走しながらあめは屋敷中、ともすれば屋敷外に響き渡りかねないほどの声で「楽しいなぁ!!」と叫んだ。



オゾケ・ストロベリィ・ドォルズ、個体名:キャンディのエラーはーーー

「考えている事と反対の事を話す」












オゾS story.3

【rebirth 】












仕事として町に出るムースを除く、屋敷のオゾケ・ストロベリィ・ドォルズは知る由もないこと(ムースはあえてその話を屋敷ではしない)であるが

主不在になってから久しいカーシー博士の屋敷は、今ではすっかりオカルトスポットとして町の人間たちに認知されている。

もともと、古城を思わせるその佇まいから雰囲気は完成していたところに、家主である博士の死や
12月のある日をきっかけに奇行を繰り返すようになったドォルズたちの存在によってその噂話はますます聞く人間の真実味を増しているといっていいだろう。

「だーいちゃーん!」

中でも取り分け、噂話を増長させる要素として一役買っているのが、あめのこの大きな声である。

あめ自身は、自分のこのやたらめったらに大きい声が好きではなかった。
あめの「考えていることと反対のことを話す」というエラーは単純なようでいてしかし
実際は屋敷の中にいるドォルズの中でもっとも複雑かつ改良の余地が見当たらない代物と言っていいかもしれない。

一口に「反対の」とは言っても、果たしてその反対がどこまでを指して反対なのか
また何を持って「反対」とするのかを、エラーを患っているあめ本人が定義できてはいない
例えば「痛い」の反対は何かと問われてあめは答えられないし、実際に口に出る言葉があめから見てすらチグハグなこともままある。
更に言えば、思ったことを全て垂れ流してしゃべり続けるという訳でもないため、非常に不安定かつ不確定な欠陥なのだ。
もし仮にこのエラーを修繕しようとするなら、さっさと匙を投げて、あめの回路を全て抜き取って新しい新品の回路を組み込む方が明らかに早く、手間もかからないだろう。
そうなった段階で、すでにここにいるあめはあめでなくなる訳だが。

「だいちゃんってばー!」

故に【エラー】。
患った欠陥に改修の見込みもなく、あるいはあったとしてもその必要なしと見做され廃棄される。
しかし完全に壊れて機能を停止することもなく、ドォル故に簡単に死ぬこともできず、生き続ける。

死に損ない。成り損ない。半生半死。

カーシー博士の屋敷をして「幽霊屋敷」「ゾンビ屋敷」などと呼ぶ人間も少なくはないが
そういった意味ではこれ以上なく的を射ていると言えるだろう。

「ねえ大ちゃん! あそぼーよ!」

まして、こんなものが屋敷の中を徘徊しているとなればまさしくここはゾンビ屋敷なのだろうとあめは目の前にいる大福を見ながら思考した。

「……近づかないで」

大福は、まるで主人にすり寄る飼い犬のように必死に自分を呼んだあめをしかし一瞥もすることはなく、ただ一言そう呟いた。

「大ちゃん、今日も綺麗だねー」

これは反対。あめも自分で分かった。
というのも、あめの目の前にいる大福はとてもではないが「綺麗」などと形容できる姿ではなかった。
本来、綺麗に結われている筈の髪はところどころがほつれ、千切れ、嵐にさらわれた枝のようにしな垂れている。
着物も大福のきっちりした性格ではありえないほどに着崩れ、まるで暴行にでも遭ったのかと思うほど痛々しい姿になっていた。
何よりも印象として強いのが、あめと初めてあった時には凛々しさすら感じた両の目の視線が今では両目が両方とも別のものを追っているかのように安定しない点である。
ドォルズの専門家でなくとも分かっただろう。「この人形はもう壊れている」と。

「そんなこと言わないでさ大ちゃん! みんなで遊ぼうよ! みんなならきっと楽しいよ! ね、タルトちゃん?」

これも反対。
まず第一にあめは、屋敷のドォルズ達と遊びたいなどとはまったく思ってはいない。
第二に、こんな状態の大福と遊んで何が楽しいのかと、思考として思える程度にはあめは狂ってはいない。
この大福と遊ぶなら、物言わぬ人形を一人で弄んでいた方がいくらかマシだろう、そう、例えるならば

「…………」

大福の傍らで、こんな風に【ただ立っているだけ】の物言わぬタルトを好きに動かす方がいくらか爽快感もあろうというものだ。

「タルトちゃんなんとか言ってよお」
「……」

あの日、ある事件をきっかけにタルトは完全に動かなくなってしまった。
大福と違い、その見た目や服装は整っているのだが、全身ボロボロの大福に対してタルトが妙に小奇麗なのはなんとも言えないアンバランスさで不気味さを禁じ得ない。
というのもなんのことはなく、タルトの見た目に関しては大福が整えたというだけで、その中身は大福以上に損壊していると言っていいだろう。
彼女の視線はこれもまた大福とは相対的に安定している―――安定して、ただ一点のみを見つめている。そこから微塵も動かない。
ただ固定されているだけで、カメラレンズとしての役割を半分以上も果たしていないのである。
以前よく喋っていた二つの口はその両方ともが固く閉ざされ、両手の指先もダランと垂れ下がっている。
辛うじて機能停止には至っていないものの、本当にただ『それだけ』で、ドォルズとして必要な能力はその一切が今は発揮されていない。
動くことなどおろか聞くことや話すこと、外部からのアクションに対して頷き程度の反応を返すことすらない。
人で例えるところの植物人間。その状態に、タルトは陥っているのである。

「……やめて、タルトに近づかないで」
「大ちゃんからもなんとか言ってあげてよお。どうしてタルトちゃん何も言わないの?」
「っ!」

分かっているくせに、という言葉を大福はなんとか飲み込んだようだった。
今この場で激昂しても仕方がないということと―――そもそもにおいてそんなことを言っても仕方がないということを思い出したのである。



φ



あの日から、カーシー博士の屋敷はその在り様を大きく変えてしまった。
まるで、それまでの幸せな日々が全て裏返ってしまったかのように。
この屋敷の中で、もっとも大切で、もっとも尊かったモノが失われた。
その時、同時にタルトは人形として機能しなくなり
大福はそんな、壊れて直しようもないタルトを直すために自分も壊れ
ちよこは全てのことに目を閉ざし、真っ暗闇の中を彷徨い
ムースは自分の中に唯一残る救いの幻想に縋るしかなくなった。

それは、やがては確実に、けれども少しずつ、【いつかは】たどり着く必然の結末だったのかもしれない。

しかしそうはならなかった。
絶望という名のそれらは、まるでそんな甘い考えを飲み込み、【今を】砕くように襲い掛かってきた。

ドォルズたち全員が知ってしまったのだ。
あめちゃん……自分たちの大好きな彼女が

「自分たちの知っていた彼女ではなかった」ということに。






φ






大福は不鮮明ながらもあめに向けていた視線を、ゆっくりと外し、それを元あった場所……タルトへと戻した。
大福の手には、普段から彼女が愛用していたスパナが握られており、足元にはカーシー博士が買い与えたであろう工具セットのボックスが置かれていた。
タルトを治療、否修繕しようとしているのである。

タルトが壊れたあの日から、大福はすぐにその作業にとりかかった。
朝も夜も体を休めることもなく、一心不乱に、わき目もふらず、ただ持てる全力でもって彼女を修繕することに努めた。

その結果、タルトは立ち上がった。
ゆっくりなら、大福について歩けるようにもなった。

そして、それだけだった。

持てる力のすべてを尽くした。自分の知識と技術を全て費やして大好きな彼女のことを救おうとした。
だから大福は、認めたくない無意識でその結論に行きついてしまったのだ。
『タルトはもう助からない』と。

「タルト、ごめんね、今日もちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

しかし、大福はそれを止められなかった。
無理だと分かったところで、彼女にはそれ以外にできることなど無かったから。
例えそれが、行うたびに自分の心という機能をズタズタに引き裂く行為だと理解していても。
その手を止めることが、自分と目の前にいるタルトの【死】と同義だと分かっていたから。

あめはそんな二人を見て、ただ

「いいなぁ、羨ましいなぁ。大ちゃんとタルトちゃんいつも仲良しだよねっ」

哀れだな―――と、そう思った。

「あめも混ぜてよぉ」

哀れすぎて触れるのも煩わしい、などと考えてしまったが故に口と体がその反対の行動を示した。

あめの手が伸び、まるで風にゆられる苗木のようにゆらりと立っているタルトに触れようとする。

「っ! やめろ!!」

瞬間、あめの頭に衝撃が走った。
大福がその手に持っていたスパナであめの頭を殴打したのである。
あめの世界がぐるりと回転し、その体は床にたたきつけられる。
視界の端で大福が「しまった」という表情をしているのが見えてしまい、なんだか可笑しい、とあめは呑気に思った。

「ぁ……め……」

大福もおそらくは咄嗟の反射だったのだろう。自分のしてしまった行為に慄いたようにスパナを落とし、あめに近づこうとする。
しかし近づこうとするだけで、その歩みがあめに向けられることは結局なかった。
まるで、あめを正体不明の、危険な、不気味な生き物とでもいうように決して近づいてこない。
怖がっているのかもしれなかった。
傷つけられること、あるいは傷つけてしまうことを。

あめは、殴られた頭を両手で揺り起こしながら、ゆっくりと上半身を起こすと、その丸く大きな目で大福を見て、言った。

「大ちゃん。だぁい好き」

大福は、何も言えなかった。

あめは、そんな大福と、そんな大福に今は声すらかけられなくなったタルトを見ながら、駆け足でその場からいなくなった。






かろうじて屋敷を管理していたドォルズ達の多くがその機能を果たしていない今となっては、もはやムースがこの屋敷における最後の支柱といっても過言ではない。
ボロボロの体、ボロボロの心でそれでも彼女が町へ仕事に出続けたのは、同じ仲間であるドォルズたちを守りたいという気持ちや、博士に叶えてもらった願いを裏切れないという気持ちもあったが
何よりも彼女を突き動かしたのは「ただ王子様に会いたい」という、少女としてささやかと形容することすら憚られる、小さな願いだった。

「やっぱり……片方だけだと、キツいな」

町から屋敷へと続く林の中の一本道を、ムースはとぼとぼと俯いて歩きながら
誰に言うでもなく、まるでそんな風に口に出さないと暗い気持ちに押しつぶされてしまうとでもいうように、ひび割れたメガネの右レンズを撫でて言った。
一見、どう見ても普通のメガネにしか見えないソレは、しかしカーシー博士がムースの欠陥を完全に補えるようにと作成した唯一無二の貴重品である。
それが破損したのは今からちょうど五日ほど前のこと。
久しぶりに仕事が成立した客に「辛気臭いツラが気に入らない」と思い切り顔を殴られた。
ムースが町で噂の「幽霊屋敷」のドォルであると知っており、こちらが下手に出るしかないと分かった上での横暴だったのだろう。
もちろんムースはそれに対して抗議などできる筈もなく、なんとかその後は事なきを得るように努めて振る舞った。その日の仕事終わりは声を殺して泣いた。
ここ最近、仕事が終わった後はいつも泣いているな、とムースは思った。

「あ、ムースちゃんだー! おかえりー!」

ムースの体がびくりと跳ね上がる。ああ、また泣かなければならないのかとムースは心中で軽く絶望する。
そんなムースの胸中を知ってか知らずか、何の用があったのか屋敷の扉の前にいたあめはやはり軽やかな足取りでムースの目の前へと駆け寄った。

「おかえりムースちゃん! 今日もお仕事楽しかった?」
「……そう見える?」

ムースは自分の有様を見て、自らを嘲笑するような溜息をついた。
彼女の纏っている衣服はこれもやはり大福と同じようにところどころがよれている
そういう仕事なのだからと一言で言ってしまえばその通りかもしれないが、しかしムースの体の至る所に刻まれた傷が
ムースが外でどういった扱いを受けて帰ってきたのかを如実に物語っている。当然、あめの視界にもそれらは捉えられている。

「うん!いいなぁ!お外に出られるの羨ましいよぉ!」

だというのに、あめはそんなムースを(分かりきった事ではあるのだが)慮る様子など微塵も見せない。
ムースは「そんな姿になってまでよくやるな」というあめの本意を受け取って、今にも泣きそうだったが
グっとその嗚咽を飲み込み、あくまで気丈にあめに切り返した。

「……そうかなぁ? 私はあめちゃんの方が羨ましいけどな、毎日楽しそうで」

皮肉、である。
ムースは現在の屋敷内のドォルズにおいて唯一正常な思考を残しているといっていい。
そんなムースは、あの日からずっとエラーの正体を顕したあめのことを見ているのだから、だいたい彼女の考えている「反対のこと」が分かるようになってきた。

あめは、この世界が嫌いで嫌いで仕方がないのだ。
だから世界に絶望しながら「生きるのなんて下らない」と言って毎日を生きている。
ともすれば、生きることそのものが苦行であるかのように、笑いながら憎んでいる。喜びながら嘆いているのだ。
それを読み取ったうえでの、今のムースにできる精一杯の皮肉であった訳なのだが。

「うん、楽しいよ! ムースちゃんは王子様に会えた!?」

自分の性質を理解した上での皮肉に関してはやはりあめの方に分があるらしく、ムースは強烈なカウンターを食らった。

「……私、王子様に会えるかな?」

言ってから後悔した。こんなものは弱音以外の何物でもない。
今の心持でこんなことを口に出したら、自分を痛めつけるだけだと分かっていたのに
あめが恐らくはわざと言葉にした「王子様」という単語に心が揺さぶられるのを抑えられなかったのだ。

「絶対会えるよ! 頑張ってムースちゃん!」

瀕死でもう立ち上がれなくなったところに、心臓を刺し貫かれたような気分だった。
容赦なく、完膚なきまでに自分が吐き出した弱音は追い打ちという形で一掃された。
ムースは、自分の網膜レンズに水分が蓄積されるのを感じて、そして、それを絶対にあめに見られたくなくて、顔を伏せてしまった。

「どうしてなの、あめちゃん……どうして?」

その問いに、答えがほしかった訳ではない。
ただ、感情と一緒に溢れ出してしまった。
もっと言えば、もはやあめの声などこの場においては聞きたくもなかったのだ、だからあめからの返答も期待はしていなかった
しかし

「私はエラーじゃないからだよ」

涙をグっと飲み込み、あめの顔を見た。
いつも笑っているあめの顔に―――表情がなかった。
ムースは、泣いてしまった。

「っ……そうじゃないよ……!」
「……なにが?」
「そんなの……エラーなんて、私はただ、あめちゃんに、私たちのこと……」
「……」

―――やめた。
こんなことは、不毛だと、ムースは思った。

「……私、部屋に戻る……夜には仕事があるから休まないと」
「そっか! ゆっくり休んでねムースちゃん!」

あめの言葉をすべて聞き終える前に、ムースは速足で屋敷の扉を開き、勢いよく閉じた。
あめは空を見上げた。

「おひる」

現在時刻、二十時四十七分。紛れもなく夜である。

「ムースちゃん、元気そうでよかった!」

ムースの脳内メモリにおいて意識の混濁と、記憶の混乱が始まっているな、とあめは思った。
先ほどのように、ムースが普通に会話できるのも、きっと長くはないだろう。





屋敷の中に戻ったあめは、言葉を返してくれる相手もいないというのにぶつぶつと独り言を繰り返すちよこと
ちよこに話しかけられている【ナニか】を見つけた。

「ご、ごめんなさい……こ、今度は頑張るから、もう一度だけお願いしてもいい? ……あ、ありがとう」

【ナニか】は返事を返さない。完全なるちよこの独り言である。
自分もエラーを患って久しいが、ここまできたら本格的にドォルズとしても終わりだなと、あめは思う。
ちよこ本人がなんだかやけに幸せそうなのがまたなんとも哀れさを増大させていて、見るに堪えないとは正にこのことなのだろうと感じた。

「ちよこちゃーん!」

だから、体はその反対の行動を選んだ。

「……え、あめちゃん? どこ? どこにいるの?」
「ここだよぉ、ちよこちゃん」
「え……か、隠れてるの? や、やだあめちゃん、もぅ」

姿が見えないあめに対して困ったように、しかしはにかんだように笑うちよこを見て。
【ちよこの目の前にいるあめ】はどうしたものかと首をかしげた。

「あ、あめちゃん、最近かくれんぼ好きだね……? ごめんね、いつも見つけてあげられなくて
 こんなに近くから声がするのになぁ……あめちゃん、かくれんぼ上手」

ちよこは、タルトという身体的な致命傷を負ったケースを除いて言えば、間違いなくドォルズの中で最も『壊れて』いた。
ちよこには―――見えるはずのモノが見えず、見えないはずのモノが見えていた。
タルトや先ほどのムースのように、直接なにがしかのダメージを受けた訳ではない。
ちよこは、自らの意思で自らを壊していた。
受け入れられないモノを全て、自分の中から追い出していたのだ。

「い、今ちょっと、忙しいから、また今度一緒にかくれんぼしてもいい?」
「うん、いいよ!」

ちよこにとって『受け入れられないモノ』となったあめは、ちよこの投げかけに勢いよく頷く。
明確な拒絶の意思である。そんなことをして何になるというのか。

「ありがとう……あ、ご、ごめんね、続き、だよね?」

そして

「こ、今度こそ触れるように頑張るからね…………イチゴちゃん」

ちよこの目の前にいる【ナニか】も、それを受け入れられないとでもいうように、やはり沈黙を守ったままだった。

「長い間ごめんね……イチゴちゃん、大丈夫? 疲れてない?」

ちよこに話しかけられたナニかは、一見して不自然な姿勢をしていた。
おおよそ生理的には成り得ないであろう、形容するならば百合の花。
ある一点まではピンと背筋を伸ばしたようにまっすぐなのに、ある一点からは急に折れ曲がっている。
百合と形容すれば白く可憐な姿をイメージするかもしれないが、その全体の色は黒と茶色と赤に彩られ、お世辞にも心地よくなる色合いとは言い難い。
そんなナニかを、ちよこは愛おしそうに、壊れ物にでも触れるように接する。
ちよこには、目の前の『受け入れられないナニか』が『受け入れられる誰か』になっているのだろう。
そして、それを見てとても……とてもうれしそうに微笑んでいる。

「よかったねぇ、ちよこちゃん」

先ほど、あめはこの屋敷内において最も壊れているドォルをちよこだと評したがしかし
そういう意味でちよこは、現在進行形で傷つき続けている大福やムースよりも、ある意味今の屋敷の中ではもっとも幸せなドォルであるかもしれなかった。

「うん、最近イチゴちゃんと仲良しなの……ずっと二人でちょび髭訓練してるの……なんだかね、黒虫たちも喜んでくれてるみたい」

そのおかげで、彼女は目の前にいるナニかの本当の有り様も
自らが肩から提げた虫かご―――その中にある、変わり果てた彼らの姿も、見ないで済んでいるのだから。
まあ、それもきっと長くは続かないのだろうが。

「あ、そろそろサンタさんきちゃうかも! 私、お出迎えしに行ってくるね!」
「うん……あ、あめちゃん」

暦の上でクリスマスなどはまだまだ先の話なのであるが、あめの「サンタさん」はもはや挨拶代わりのようなモノなので
そこに対してツッコミを入れるものはもはや誰もいない。
ちよこがあめを呼び止めた理由も、当然のごとくソレではない。

「なぁに?」
「……ありがとう」
「……」

あめは、考えて

「どういたしまして!」

反対の事を言った。

「じゃあね!」

あめはまた駆け出した。
ちよこの隣に転がっている【ナニか】に、あめは当然のごとく声もかけなかった。






「あわてんぼーのーサンタクロース、クリスマスまえーにー」

あめは歌いながらいつもの部屋に戻ってきていた。
大福とタルトの姿はもうなく(恐らくはあめが戻ってくることを忌避したのだろう)、ただでさえ寂れて静かな部屋は、完全に閑散としていた。

そんな部屋の中で、あめは目的もなく、やりたいこともなく、希望もなく
何もないが故に、部屋の中をふらふらと、舞うように歩き回っていた。

「楽しいなぁ」

別に、理由もきっかけもなく、ふと、あめは思った。
―――楽しいの反対は、果たしてなんなのだろうと。

「楽しいなぁ」

その問いに自らが答えることも、誰かが答えてくれることもない。
つくづく、自分を……ひいては、オゾケ・ストロベリィ・ドォルズを設計したカーシ―博士を、無能な男だとあめは思う。

作り物のくせに、作り物の自分の気持ちすら分からない。

そんな欠陥品の自分を、何故、生み出したのか。
何故、こんな世界で自分は生きているのか。
わからなかった。

「早くサンタさん、来ればいいのにっ!」

その言葉がどんな意味を持って自分の口から出ているのかも

あめには、わからなかった。












fin.
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